この記事でわかること
- 検査室で実際に使い分けていた洗浄・殺菌剤の種類と用途
- なぜ殺菌にベンザルコニウム溶液を選んでいたのか
- 【実体験】ベンザルコニウム溶液から菌が出た原因と対策
- pH電極の特殊な洗浄方法と日常洗浄できない理由
- 電極を2本ローテーションしていた現場の工夫
① 検査室で使っていた洗浄・殺菌剤の使い分け
検査室の洗浄・殺菌は、用途ごとに使う薬剤がはっきり決まっていました。何となく使うのではなく、それぞれに明確な役割があったので、まずはここを整理します。
実はこの考え方、飲食店や食品工場の現場でもそのまま使えます。一般的な汚れの例も合わせて見ていきましょう。
| 用途 | 使用していたもの | 役割 | 一般的な汚れの例 |
|---|---|---|---|
| 通常の洗浄 | 中性洗剤 | 器具の日常的な汚れ落とし | 食器、まな板、調理台の軽い汚れ |
| 浸けおき漂白 | ハイター(次亜塩素酸ナトリウム) | 着色汚れ・有機物の分解 | まな板の色移り、布巾の漂白、調味料の染み |
| 殺菌 | アルコール/ベンザルコニウム溶液 | 微生物検査時の器具殺菌 | 手指消毒、調理器具の殺菌 |
| 無菌が必要なもの | 滅菌(オートクレーブ等) | 完全な無菌状態が必要な器具 | (一般の現場では基本的に不要) |
油汚れ・乳製品の汚れはどう違う?
ちなみに、ここで挙げた「中性洗剤」が落とせる汚れと、別途「酸性タイプの洗剤」が必要になる汚れがあります。
- 油汚れ・タンパク質汚れ(揚げ物の油、肉・魚の汚れなど)→ 中性〜アルカリ性の洗剤で落ちやすい
- 乳石・水垢などのミネラル汚れ(牛乳・乳製品を扱う設備の白い固着汚れ、水回りの白い跡など)→ 酸性の洗剤でないと落ちにくい
⚠️ 「洗剤を変えても汚れが落ちない」という時は、汚れの性質(酸性かアルカリ性か)と洗剤の相性が合っていない可能性があります。汚れに合わせて洗剤を選ぶことが、効率よくきれいにするコツです。
⚠️ 「殺菌」と「滅菌」は別物です。殺菌は菌の数を減らす処理、滅菌はすべての微生物を死滅・除去する処理を指します。検査の精度を保つには、この違いを理解して使い分けることが重要です。
それぞれの役割が決まっているからこそ、「この用途にはこれ」という判断に迷わずに済んでいました。
② なぜ殺菌にベンザルコニウムを使っていたのか
微生物検査では、器具の口元をガスバーナーで炙って滅菌する工程があります。
ここで重要なのが、アルコールは引火するということです。ガスバーナーを使う作業の近くでアルコールを使うのは、火気の観点からリスクが高くなります。
そのため、ガスバーナーを使う微生物検査の現場では、ベンザルコニウム溶液を殺菌剤として選んでいました。アルコールのような引火性がなく、殺菌効果も持っているため、火気作業との相性が良かったんです。
③ 【実体験】ベンザルコニウム溶液で菌が出た事件(修正版)
ここからは、実際に検査室で起きた出来事です。
ベンザルコニウム溶液は、毎日希釈してスプレーボトルに作り、殺菌用として使っていました。日々のルーティンとして特に問題なく回っていたのですが、ある時から異変が起き始めました。
菌がポロポロと検出されるようになったんです。
最初は「検査室の汚染」を疑った
ただ、最初から「殺菌剤が原因だ」とわかっていたわけではありません。
気になったのは、菌の出方に一貫性がなかったことです。毎回同じ製品から菌が出るわけでも、同じラインから出るわけでもない。検出量も少量でバラバラ。何かがおかしいとは感じていても、原因の絞り込みができない状態が続きました。
「もしかして、検査室自体が汚れてしまっているのではないか?」
そう考えて、室内の拭き取り検査を実施しました。気になる箇所を片っ端から調べ、清掃を強化して、様子を見る。でも、菌の検出は減らない。
まさか、殺菌剤が原因とは
拭き取り検査でも改善しない。清掃を徹底しても変わらない。
そんな試行錯誤を繰り返す中で、ようやく思い至ったのが殺菌剤そのものでした。
「毎日使っているベンザルコニウム溶液が、もしかして汚染されているのでは?」
正直、最初はその発想がなかなか出てきませんでした。殺菌剤が汚染源になっているなんて、思いもよらなかったからです。
調べてみると、最終的にたどり着いたのが、スプレーボトルのノズル部分(ホースのような細い管の部分)でした。
使い終わったあとは毎日きちんと洗っていたのですが、洗浄後に「すすいで置いておく」だけになっていたんです。ノズルの細い管の内部には、すすいだ水がわずかに残ったまま乾かずにいました。
この残った水が、時間とともに菌の温床になっていました。殺菌剤を作るための容器そのものが、毎日少しずつ汚染を蓄積させていたということです。
対策:使用後は次亜塩素酸ナトリウムに浸け置き
原因が分かってからは、運用を変えました。
使用後のスプレーボトルは、洗浄して終わりではなく、次亜塩素酸ナトリウム溶液に浸け置きするようにしました。
これによって、ノズル内部に水が残った状態のまま放置されることがなくなり、同じトラブルは起きなくなりました。
⚠️ 「洗っているから大丈夫」という思い込みが一番危険です。見えない部分(ノズルの内部、細い管の中など)に水分が残っていないか、定期的に見直す習慣が大切です。また、「一貫性のない少量の菌検出」が続く場合は、器具や消耗品など、普段疑わない部分まで原因を広げて調査することが重要です。
④ 【専門知識】pH電極の特殊洗浄
ここからは少し専門的な内容になりますが、検査機器を扱う方には役立つ内容だと思います。
汚れると感度が落ちる理由
pH計の電極は、使い込むうちに表面が汚れてきます。汚れが付着すると、電極の感度が悪くなり、測定値がブレるようになります。正確な数値を出せなくなるため、定期的な洗浄が欠かせません。
でも、日常的には洗剤で洗えない
ここがpH電極の難しいところです。
電極には小さな穴(液絡部)があり、ここから内部液が少しずつ出ることで正常に機能しています。日常的に洗剤を使って洗ってしまうと、この穴から洗浄剤が電極の内部に入り込んでしまうんです。
そのため、洗剤を使ってしっかり洗浄する場合は、洗浄後に電極の内部液を交換するという手間が必要になります。日常的にホイホイ洗剤で洗えるものではない、ということです。
洗浄の役割と順番
調べ直したところ、洗浄剤にはそれぞれ役割があり、順番も決まっていました。
| 洗浄剤 | 落とす汚れ | 役割 |
|---|---|---|
| 中性洗剤・アルコール | 油脂などの一般的な汚れ | 基本の洗浄 |
| 塩酸 | 金属イオンなどの無機質の汚れ | 液絡部の目詰まり解消 |
基本の流れとしては、まず中性洗剤やアルコールで一般的な汚れを落とし、そのあとに塩酸で無機質の汚れを落とすという順番になります。表面の汚れを先に落としてから、奥に残った金属イオンなどを塩酸で溶かす、という考え方です。
⚠️ 洗浄後は、内部液の交換と校正を忘れずに行ってください。洗浄しただけでは、電極は正しい状態に戻りません。
⑤ 電極を2本ローテーションしていた理由
pH電極には使用期限があり、目安は1年とされています。
検査室では、この期限と日々のメンテナンスの手間を踏まえて、電極を2本用意し、毎月洗浄しながら交互に使用するという運用をしていました。
1本を使っている間に、もう1本は洗浄・メンテナンス・内部液の交換を行う。これを繰り返すことで、
- 洗浄中で測定ができないという空白期間がなくなる
- 1本に負荷が集中せず、寿命を延ばせる
というメリットがありました。地味な工夫ですが、毎日測定する機器だからこそ、こうした運用が現場では大切でした。
まとめ
- 検査室の洗浄・殺菌剤は、用途ごとに明確な役割があった(中性洗剤・ハイター・アルコール・ベンザルコニウム・滅菌)
- 一般的な現場でも同じ考え方が使える(油汚れ・乳石汚れなど、汚れの性質に合った洗剤選びが重要)
- ガスバーナーを使う微生物検査では、引火性のないベンザルコニウム溶液を殺菌に使用
- ベンザルコニウム溶液から菌が出た原因は、スプレーボトルのノズルに残った水だった
- 対策として、使用後は次亜塩素酸ナトリウム溶液に浸け置きするよう運用を変更
- pH電極は汚れると感度が落ちるが、日常的には洗剤で洗えない(内部液への侵入リスクがあるため)
- 洗浄は中性洗剤・アルコール→塩酸の順番で、洗浄後は内部液の交換が必須
- 電極は2本ローテーションで運用し、メンテナンスの空白期間をなくす工夫をしていた
