もし今、お店でお客様が嘔吐したら?
営業中に突然、お客様が嘔吐——。 パニックになる前に、この記事を読んでください。
ノロウイルスはわずか10〜100個のウイルスで感染すると言われるほど感染力が強く、処理の手順を誤ると、スタッフや他のお客様への二次感染、最悪の場合は営業停止につながります。
品質管理の現場で教育資料を作成してきた経験をもとに、「現場で迷わない」処理手順を整理しました。
ノロウイルスの基本|なぜこんなに危険なのか
- 感染力が極めて強い:わずか10〜100個程度のウイルスで感染が成立する
- 乾燥に強い:乾燥した嘔吐物はウイルスが空気中に舞い上がり、吸い込むだけで感染するリスクがある
- アルコールが効かない:消毒用エタノールはノロウイルスにはあまり効果がなく、次亜塩素酸ナトリウムが必要
- 発症までのタイムラグ:感染から24〜48時間後に発症するため、発症したスタッフが前日・前々日に調理していたケースも多い
- 流行時期:11月〜1月がピーク。ただし年間を通じて発生する
⚠️ アルコールが効かない理由・次亜塩素酸との使い分けはこちら▶▶▶
処理前に準備するもの|これを先に揃える
慌てて素手で触るのが最大のNG。まず準備を整えてから処理に入りましょう。
| 必要なもの | ポイント |
|---|---|
| 使い捨てビニール手袋(2枚重ね推奨) | 処理中に破れるリスクに備えて二重に |
| 使い捨てマスク | 飛沫吸い込み防止 |
| 使い捨てエプロンまたはゴミ袋(羽織れるもの) | 衣服への付着防止 |
| ペーパータオルまたは新聞紙 | 嘔吐物を覆う・拭き取る |
| ビニール袋(2〜3枚) | 廃棄物の密封用 |
| 次亜塩素酸ナトリウム液(1000ppm) | 嘔吐物処理用 |
| 次亜塩素酸ナトリウム液(200ppm) | 周囲の床・ドアノブ等の消毒用 |
| バケツまたは容器 | 消毒液を作る用 |
消毒液の作り方(原液6%の塩素系漂白剤で1L作る場合)
用途 濃度 原液の量 嘔吐物の処理 1000ppm 16.7ml 周囲の床・ドアノブ等 200ppm 3.3ml ※使い捨て。作り置きは効果が落ちるため、使用のたびに新しく作ること ※金属面に使用した場合は10分後に水拭きしてください(腐食防止)
💡 ppmの意味・詳しい希釈早見表はこちら▶▶▶
嘔吐物の処理手順|ステップごとに迷わず動く
❶ 周囲のお客様を遠ざける・換気する
まず他のお客様を別の席や場所に誘導してください。窓・ドアを開けて換気を始めます。 嘔吐物が乾燥すると粒子が空気中に飛散するため、換気は最優先です。
❷ 個人防護具(PPE)を着ける
手袋(二重)・マスク・エプロンを装着。素手・素顔で近づかないことが鉄則です。
❸ 嘔吐物をペーパータオルで静かに覆う
嘔吐物の上にペーパータオルや新聞紙をかぶせます。このときこすったり広げたりしないこと。 次亜塩素酸ナトリウム液(1000ppm)をペーパータオルの上から浸み込ませ、10分程度そのまま置く。
❹ 外側から内側に向かって静かに拭き取る
飛散を防ぐため、周囲から中央に向かって折り込むように拭き取ります。 拭き取ったペーパータオルはすぐにビニール袋へ。
❺ 汚染範囲を消毒する
嘔吐物の飛沫は半径2m程度まで飛び散っていると考えてください。 床・壁・椅子・テーブル・ドアノブなど、広範囲を次亜塩素酸ナトリウム液(200ppm)で拭き取ります。
❻ 使用した道具をすべてビニール袋に密封して廃棄
手袋・マスク・エプロン・ペーパータオルはすべてビニール袋に入れ、袋の口をしっかり縛って廃棄します。袋の中に消毒液を少量注いでから封をするとより安心。
❼ 手洗いをしっかり行う
手袋を外した後も必ず石けんで30秒以上もみ洗いしてください。 ノロウイルスにアルコール消毒は効果が薄いため、流水と石けんによる手洗いが基本です。
ノロウイルスを死滅させる方法|「75℃・1分」では不十分
食品や調理器具に付着したノロウイルスを死滅(失活化)させるには加熱が有効です。ただし、ここに大きな落とし穴があります。
一般的な食中毒菌とノロウイルスの違い
| 加熱条件 | |
|---|---|
| 一般的な食中毒菌(サルモネラ等) | 75℃・1分以上 |
| ノロウイルス | 85〜90℃・90秒以上 |
「食中毒といえば75℃・1分」と覚えている方も多いのですが、ノロウイルスはこれでは不十分です。
厚生労働省の大量調理施設衛生管理マニュアルおよびコーデックス委員会のガイドラインでも、ノロウイルスの死滅条件は中心温度85〜90℃・90秒以上と定められています。
カキなどの二枚貝を提供する飲食店では特に注意が必要です。「加熱した」だけでは不十分で、中心温度をきちんと確認することが重要です。
調理器具の消毒
調理器具は洗剤で十分に洗浄した後、以下のいずれかで消毒します。
- 熱湯(85℃以上)に1分以上浸す
- 次亜塩素酸ナトリウム液(200ppm)に浸す
💡 次亜塩素酸ナトリウムの濃度・用途別の使い方はこちら▶▶▶
処理後にやること
✅ 換気を継続する
処理が終わっても少なくとも30分以上は換気を続けましょう。
✅ スタッフの健康状態を確認・記録する
処理に関わったスタッフの体調を確認し、記録しておきます。発症した場合は出勤停止の判断が必要です。
✅ 嘔吐したお客様の状況を記録する
発症日時・症状・連絡先(可能であれば)を記録。複数の発症者が出た場合、保健所への報告義務が生じる場合があります。
✅ 必要に応じて保健所へ連絡
食中毒が疑われる場合(複数名が同様の症状を訴えるなど)は、管轄の保健所に連絡してください。
やりがちなNGまとめ
❌ 素手・素顔で対応する → 処理した手でどこかを触るだけで二次汚染が広がります
❌ アルコールスプレーで消毒する → ノロウイルスにはほぼ効果なし。次亜塩素酸ナトリウムを使うこと
❌ 嘔吐物をこすって広げる → 飛沫が広がり汚染範囲が拡大します
❌ 近くのテーブルだけ消毒して終わりにする → 飛沫は半径2m程度に飛び散っています。広範囲の消毒が必要
❌ 75℃・1分の加熱でOKだと思っている → ノロウイルスは85〜90℃・90秒以上が必要です
保存版チェックリスト|印刷してお店に貼っておこう
【嘔吐物処理チェックリスト】
<準備>
□ 周囲のお客様を誘導・換気開始
□ 手袋(二重)・マスク・エプロン着用
□ 次亜塩素酸ナトリウム液を準備
・1000ppm(嘔吐物処理用) 原液6%で1Lあたり16.7ml
・200ppm(周囲消毒用) 原液6%で1Lあたり3.3ml
<処理>
□ ペーパータオルで嘔吐物を覆い、1000ppm液を浸み込ませて10分待つ
□ 外側から内側に向かって静かに拭き取る
□ 半径2m程度を200ppm液で消毒
□ 使用物をビニール袋に密封して廃棄
<処理後>
□ 石けんで30秒以上手洗い
□ 30分以上換気継続
□ スタッフの体調確認・記録
□ 状況の記録(日時・症状・対応内容)
□ 必要に応じて保健所へ連絡
次亜塩素酸ナトリウム溶液も同梱されていて、すぐに使用できるセットもあります。
※次亜塩素酸ナトリウム溶液は2年で交換が必要です。
まとめ
ノロウイルスの嘔吐物処理で大切なのは、**「慌てず、正しい順番で、広げない」**の3点です。
- 素手・素顔で近づかない
- アルコールではなく次亜塩素酸ナトリウムを使う(1000ppmで嘔吐物、200ppmで周囲)
- 飛沫は半径2m、乾燥前に処理を完了させる
- 加熱はノロウイルスなら85〜90℃・90秒以上が必要(75℃・1分では不十分)
いざというときに慌てないために、このチェックリストをお店のバックヤードに貼っておくことをおすすめします。
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品質管理15年の実務経験をもとに作成しています。詳細な対応については管轄の保健所にご確認ください。

